【一覧表付き】英語の母音の発音記号の違いと理由のまとめ【辞書や単語帳によって違う?】

英語の発音を学ぶ上で不可欠なのが音素とその発音記号の習得
それにも関わらず、母音音素の発音記号は
辞書・単語帳・発音の学習書によって少しずつ違い

発音を学ぶ際の大きな障害となっています。
そこで今回は、それらの違いをまとめながら、
なぜそのような違いがあるのかについて解説します。

また当ガイドで使う記号が選ばれた理由についても触れていきます。

さらに、英語の母音の発音記号の違いをまとめた一覧表
この記事の中で簡易版、PDFで完全版としてご用意しました。
発音学習・指導の際にお役立ていただければ幸いです。

Sponsored Links

母音の発音記号の違いの一覧表

辞書・単語帳や発音学習の参考書でよく見られる
母音の発音記号の中で統一されていないものを以下にまとめました。
(つまり、æ・ʌ・ɑ・əなどは掲載されていません。)

母音音素を全て掲載した完全版ををお求めの方は、

からPDF版をご覧ください。
(完全版の項目については、PDF内の説明をご覧ください。)

この記事内の簡易版の表には3つの項目があります。
最初の項目にその母音が使われている代表的な単語、
次の項目に当ガイドでの使用を選択した記号、
そして最後の項目にその母音を表すのに使われる
他の発音記号の一覧を掲載しています。

詳しい解説や補足などは、一覧表の後に続きますので、
そちらを先にお読みになりたい方は、
「解説」の項目へ先に進んでご覧ください。

単母音

単語例当ガイド
での記号
他の発音記号
sitɪi  I
seatii ː
footʊu  U
fooduu ː
fewjuju ː
bedɛe
lawɒɔ ː ɔ ɒ ː

二重母音

単語例当ガイド
での記号
他の発音記号
takeei eI
like  ai aI
ɑɪ ɑi ɑI
boyɔɪɔi ɔI
house  au aU
ɑʊ ɑu ɑU
roadou oU

R音性母音

単語例当ガイド
での記号
他の発音記号
birdɚɚ ː ə ː r ə ː (r)
əʳ ː ɜ ː r ɝ
laterɚər ə(r) əʳ
carɑɚɑ ː r ɑ ː (r) ɑ ː ʳ
warmɔɚɔ ː r ɔ ː (r) ɔ ː ʳ
bearɛɚɛər ɛə(r) eəʳ
eər eə(r) eɚ
beerɪɚɪər ɪə(r) iəʳ
iər iə(r) iɚ
tourʊɚʊər ʊə(r) uəʳ
uər uə(r) uɚ
purejʊɚjʊər jʊə(r) juəʳ
juər juə(r) juɚ
fireaɪɚaɪər aɪə(r) aɪəʳ
aiər aiə(r) aiɚ
poweraʊɚaʊər aʊə(r) aʊəʳ
auər auə(r) auɚ

(注1): 当サイトでは、birdとlaterの ɚ は強勢の有無で区別。
(例:/’bɚd/ /’leɪɾɚ/)
(注2): laterの母音以降の「他の発音記号」で3番目に載せている、
右上の添字に r を付けている表記は
一部のWebブラウザでは正しく表示されないようです。
申し訳ありませんが、他のブラウザでお試しいただくか、
PDFの完全版の方をご参照いただくようお願いいたします。

解説

はじめに

でもご紹介しましたが、英語で使われる主流の発音記号は、
IPA(International Phonetic Alphabet= 国際音声記号)という、
世界のどの言語の音でも表現できるように用意された記号のセットから
一部を選んだものが使われています。

この選び方が統一されていれば、学習者としては楽だったのですが、
幸か不幸か、英語の母音においては、
時代を経るごとにその当時の学者や辞書の編集者たちが
「これが一番、発音を表すのに適してるだろう」と考えた
発音記号のセットを決めていき、少しずつ変化していきました。
(幸い、子音の発音記号の選び方は統一されています。)
その流れは現在でもなお続いています。

また国内でも辞書・単語帳・発音教本など、
それぞれの著者・編集者の方針・教育的な狙いにより、
さらに細かい違いも生じています。

どれが正解ということは無いのですが、
英語の発音を学ぼうとする人にとっては、
この発音記号が混在した状況は大きな問題です。

ただでさえ発音記号は馴染みがなくて覚えにくいというのに、
自分が使ってる辞書・単語帳・教科書はもちろん、
はては発音を勉強するための参考書やサイトですら
使われている記号がバラバラでは混乱して当然です。

その状態を少しでも改善にするために
各所で使われている様々な英語の母音の発音記号をまとめたのが上記の表です。

補足:IPA以外の発音記号

アメリカ出自の辞書の中には、Merriam-Websterのように
IPAではない独自の発音記号を用いているものもあります。
今回の表ではそのような記号は含まず、
IPAを基にしているもののみを掲載しております。
その他の種類の発音記号をお知りになりたい方は、
参考・関連サイトの末尾の方をご覧ください。)

一番大きな違いは、ɪ – i – i ː と ʊ – u – u ː の使い分け

辞書によって、 ɪ や ʊ のようにアルファベットにない記号が使われたり、
長い音を示す ː が使われたり使われなかったりしますが、
そもそもなぜこんな違いがあるのでしょうか?

その疑問に答えていく前にまずは、
これらの記号の使われ方の変遷を下記の表でご覧ください。

sitseatfootfood
(1)音の長さのみで区別ii ːuu ː
(2)音の質のみで区別ɪiʊu
(3)両方の違いで区別ɪi ːʊu ː

(参考): “IPA transcription systems for English” (John C. Wells)

歴史的には、(1)が一番古く、(3)が一番新しいものです。
それぞれ、提唱者の名前やその記号の使い方の特徴から

  • (1) Jones式。音量表記(quantative transcription)。
  • (2) Kenyon式。音質表記(qualitative transcription)。
  • (3) Gimson式。音質音量表記(qualitative-quantitative transcription)。

などと呼ばれることもあります。
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。

(1)Jones式は音の長さに注目

まず、(1)のセットは、初期のIPAの設計にも携わり、
英語の発音辞書であるEnglish Pronouncing Dictionary (EPD)の
初版〜12版の編集者でもある音声学者の Daniel Jones によって、
英語のための発音記号として初めてIPAが採用された時に設定されたものです。

このセットの特徴は、2つの音をその長さの違いに注目して、
i – i ː や u – u ː のように
ː の記号の有無によってのみ区別するようにしたことです。

もちろんこれらの音の間には長さ以外にも質的な違いもあります。
ですが、それらの質的な違いは改めて明示する必要はないとして、
その代わりにアルファベットに無い記号の利用をできるだけ避けて、
簡略化しようとしたのがこのセットの狙いです。

このセットが英語の辞書で使われた
最初のIPAを基にした発音記号ということもあり、
日本でも早期から英和辞書や単語帳などに利用されて、
「Jones式」発音記号と呼ばれ、現在でも使われ続けています。

(よくJones式記号とIPAが対比的に別物のように紹介されていますが、
Jones式記号もIPAを基にした発音記号の一つですので、ご注意を。)

(2)Kenyon式と(3)Gimson式は音の質に注目

しかし、このJonesの選択に意義を唱えていた学者達もいました。
J. S. Kenyon等の米国の言語学者や音声学者は、
違う音質の音素には ɪ – i や ʊ – u のように違う記号をあてて、
ː 記号は使わないようにする方針で(2)のセット(音質表記)を提唱しました。

そして、この2つのセットの特徴を合わせ、
音の長さと質の両方を明示的に表現しようとして、
(3)のセット(音質音量表記)を提唱したのが、
EPDの編集の後継者となった A. C. Gimsonです。

ɪ – i ː や ʊ – u ː のように
短い音の記号の方にはアルファベットではない特殊な記号を用いつつ、
長い音の記号には、さらに ː 記号も使って強調するのがこの表記の特徴です。

(2)のKenyon式は、米音表記をする際には今でも少し使われていますが、
最終的には (3)のGimson式が標準となって、英語圏だけでなく、
現在の日本の英和辞書や単語帳でも最も広く使われています。

なぜ逆転英語ガイドでは ː 記号を使わないのか?

このページの発音記号表を見ていただければ分かりますように、
当ガイドでは標準の(3) 音質音量表記ではなく、
記号の違いのみで音の質の違いを表した(2)の音質表記を採用しています。

この選択の最大の目的は、「 ː の使用を絶対に避ける」ことです。

これはなぜでしょうか?
当ガイドでは、英語の発音に関しての初心者〜中級者の
日本語が母語の方を主な対象としております。

そのような方にとって重要な発音のポイントの一つが
『日本語の長音記号である「ー」にあたる概念を
英語の発音では完全に忘れ去る』
ということです。

ː の記号を使うと、どうしてもこの「ー」をあてはめて
考えてしまいがちになってしまいますので、
それを避けるためにあえて ː を使用しないようにしています。

ɪ と I や ʊ と U の違いは何?

ときどき I や U のように大文字のアルファベットが使われています。
これらの記号の意味しようとしていることは ɪ や ʊ と全く同じです。
単に印刷や表示の都合上で ɪ や ʊ が使いづらい場合に、
I や U で代用してるというだけの話です。

bedの母音の ɛ と e の違いは何か?

bedの母音には、長い間 e だけが採用されていました。
ɛ の使用を提唱したのは、Oxford University Pressが
発音関連のコンサルタントとして採用したClive Uptonです。
(これ以外にもいくつかの変更点を提唱していますが、
ɛ ほど広くは採用されていないようです。)

採用された理由は、ɛ は e と同様にIPAの基本母音の一つで、
実際のbedの母音は e と ɛ の中間で
どちらかと言えば ɛ 寄りだからというものです。
( ɛ には、少し æ に近い響きが入っています。)

(注:フランス語やドイツ語では e と ɛ の音を区別しているので、
そのような言語を母語にしてる英語学習者にとっては
分かりやすいという理由もあったようです。)

逆転英語ガイドでも、ɛ を採用しました。
その理由は、米音では英音よりさらに ɛ に近い音で、
日本語の「エ」に近い e とはやや違うことを
強く意識してもらいたいからです。

lawの母音の記号は ɔ ː が主流だが、実際の米音とは合わなくなってきている

law の母音の記号には、圧倒的に ɔ ː が最も使われています。
アメリカの発音系の資料では
ː 記号を省いて ɔ が使われることもありますが、
他の記号が使われることはまずありません。
したがって、普通に辞書や単語帳を使う分には、
この ɔ ː の記号だけ覚えてもらえば十分
です。

しかし、逆転英語ガイドではこのlawの母音音素に
ɒ という他では使われていない記号をあえて採用しています。
その理由は、現在アメリカで実際に使われている音と
発音記号で示されている音とのズレが大きくなりすぎてる
からです。

IPAで ɔ ː で示される音は、本来は「オ」に近い響きを持っていて、
英国ではこれは今でも十分に近い音です。
米国でもかつてはこのような音に近かったのですが、
現在ではこの音素と認められる音の幅が相当広がって、
本来の音で発されることはだいぶマイナーになり、
今では「ア」のような響きがやや強くなった音で発されることが多くなっています。
(西海岸側を中心とした約半数の米国人の間ではこの傾向がさらに進み、
hot の母音の ɑ と同じ音で発音されているほどです。)

このように、この音素は現在の米音では、音声的にとても幅が広いので、
適切な記号を指定するのは難しいのですが、
一番妥当と判断したのが ɒ ː です。
(ただ完全に私の独断というわけではなく、
「英語音声学入門」(竹林・斉藤)など他でも
ɒ ː によって米音のこの音素が表現されています。)

ただ、当ガイドでは i や i ː の説明で述べたように、
ː 記号の使用を極力避ける方針ですので、ɒ を選択しました。
(ɒ の記号は hot の英音の母音と同じなので混乱を生じかねますが、
米音では他の母音には使われていませんので、米音のみを扱う場合は、
ː 記号を省いて ɒ としても大きな問題はないと判断しました。)

この ɔ ː から ɒ の変更による更なるメリットは、
他に ɔ の記号が使われているもののだいぶ性質の違う
二重母音の ɔɪ や ɔɝ の前半部分の音との区別が容易になり、
発音学習のもう一つの大きな混乱ポイントを解消できることです。

補足:音素と音の違い

本来、音素というものは
「客観的には異なる音であるが、ある個別言語のなかで同じと見なされる音の集まり」
(Wikipedia: 「音素」)

と表現されるように、お互いに入れ替わっても
その音素を含む単語の認識を変えない
複数の異なる具体的な音の集合を指す概念です。

したがって、音素を表す発音記号(ここでは / ɔ ː / )が示す音声が、
音素に含まれる他の特定の音声(ここでは [ ɒ ː ] や [ ɒ ])と
多少異なっていても本来は問題ありません。

(/ /はこれで囲んだ発音記号は音素レベルの記述を意味することを示す記号です。
ちなみに発音記号を [ ] で囲むとより詳細な音声の記述を意味します。)

ただこの音素に関しては、米音を学んでいる場合には、
学習に混乱をもたらすレベルの違いが生じていると判断し、
当ガイドでは特別措置として実際の音に近い ɒ の記号を
この母音の音素の記号に設定しましたので、ご了承ください。

二重母音の発音記号の主な違いは、2文字目の ɪ と ʊ にあり

上記の表を見直していただければ分かると思いますが、
二重母音の eɪ (take) aɪ (like) ɔɪ (boy) aʊ (house) oʊ (road)
の表記の違いは、それぞれの2文字目の ɪ と ʊ の表記の違いによるものが主です。

前述しましたように、sitの母音に ɪ を使うか i を使うか、
footの母音に ʊ を使うか u を使うか、
この選択次第でここで使われる記号も決まるということです。
ですから、ここの記号の選択理由もそれらの記号の選択理由と同じです。

二重母音の2番目の記号と単体の ɪ ʊ の意味してるものは別物

ただ注意すべきなのは、英語の二重母音の音素というのは、
2つの別の単母音の音素(例えば e と ɪ)を続けて発音するものではなく、
e の音から始めて、スムーズに ɪ が示す音の「方向」に
音を移行
させることによって発する「1つ」の音素だということです。

つまり / eɪ / ≠ / e / + / ɪ / ということです。

また、上記で述べた「方向」という言葉に注目してください。
eɪ の音が最終的に到達する音は、 ɪ の音そのものではなく、
ɪ や i などの類似音が属する大まかな音の範囲の中の音なのです。
ですから二重母音の ɪ や ʊ の記号は、
それらの音の範囲の「方向」を示すためだけの記号なのです。

よって、二重母音の発音記号はそれぞれが個別に音素を指定しているのではなく、
2文字が一組となって1つの「二重母音の音素」を示しているものなのです。
発音の学習の際もそのような認識を持っていただくと
スムーズに習得できますので、ぜひ覚えておいてください。

aɪ や aʊ の1文字目の記号に a ではなく ɑ を使う場合もある

あまり多くは使われていませんが、 aɪ や aʊ の1文字目に
hot の母音の記号の ɑ と同じ記号を使う場合もあります。

ɑ を使う理由としては、a と ɑ はそれほど離れた音とみなしておらず、
どのみち音素なのでピッタリの音声を表す記号でなくてもいいので、
それならば記号の数を増やさずに
ɑ で代用したほうがいいというのが主なものだと思われます。

その理由はそれで一理ありますが、
やはり ɑ と a 実際にはだいぶ違う領域の音ですので
分けたほうが学習者の混乱を防げます。
また、a はアルファベットの一つですので、
「ア」のような音のための記号と覚えることは
学習者の負担がそれほど重いとも思えません。
(逆に単母音と二重母音で別の記号が使われることにより、
見分けやすくなり負担を軽くすらするかもしれません。)

ですので、 ɑ をこの目的で使うことに
大きなメリットは特にありませんので、
より主流な記述な aɪ aʊ を使った方がよいでしょう。

逆転英語ガイドでも、そのような理由で aɪ aʊ を採用しています。

母音の発音記号の2つめの大きな違いは、R音性母音にあり!

発音記号の1つ目の大きな違いは、既に説明しましたように
ɪ – i – i ː や ʊ – u – u ː の使い分けにありましたが、
それと同じ規模の大きな違いがこのR音性母音の記号です。

R音性母音とは何か?

では、そもそもR音性母音とは何でしょう?
子音の r とはどう違うのでしょう?

その違いについて包括的な説明をするのには、
母音と子音の違いについて(そしてその説明に必要な前提知識の説明)や
それぞれの R の音の出し方などについて触れないといけないため、
ここでは簡潔な説明に留めさせていただきます。

母音と子音の機能的な決定的な違いは、
「音節の核(中心部分となる音)になれるかどうか」
です。
したがって、音の質的には母音のRも子音のRもそれほど変わりませんが、
この機能的な違いがあるので明確に母音と子音に分けられます。

さらに細かい音質的な違いを理解するのには、
2つの音の関係に注目する必要があります。

まず母音のR ( ɚ ) を基本と考えてください。
この音から次の別の母音に移行する際に生じる部分を
短く切り出したものを子音のR ( r )
と捉えるのが、
この2つの音の関係の分かりやすい理解の仕方かと思います。

(このような音の関係性は、他の移行音(子音)である j や w と
それらの母音版の i や u と同様のものです。)

話しを戻しますと、R音性母音というのは、この母音としてのR ( ɚ )と
最終的にこの音に移行していく全ての母音を指します。
具体的なR音性母音の音素については、上記の表をご覧ください。

R音性母音の表し方

このR音性母音の表し方には、主に次のものがあります。

  1. ɪ˞ ɑ˞ のようにヒゲのような補助記号を付ける。
  2. ɪɚ ɑ ː ɚ のように ɚ を続ける。
  3. ɪər ɑ ː r のようにərr を続ける。
  4. ɪə(r) ɑ ː (r) のように ə(r) や (r) を続ける。
  5. ɪəʳ ɑ ː ʳ のように r を右上に添える。

R音性母音の表記が複雑なのは、米音・英音の違いを吸収するため

それぞれの表記の意図の説明の前に、
全てに関連する知識として知っていただきたいのは、
R音性母音は米音特有のものだということです。

英音でも子音の r の音素はありますし、
このR音声母音に相当する音素はあるのですが、
最終的に移行する音が ɚ にはなりません。

例えば、ɑɚ(car) なら単に ɑ (または ɑ ː ) になりますし、
ɪɚ (beer) なら ɪə のように ə で終わる二重母音になります。

ですので、上記の5つの表記の内、
最初の2つは米音しか表せないということになります。
米音と英音を併記できるスペースのある辞書ならばよいのですが、
そういったスペースが無い出版物の場合は、
文字スペースの節約のため下の3つのように表記して、
米音なら r を含めて、英音なら含めないで
発音してもらうようにしている
というわけです。

R音性母音の各表記の特徴

それでは、それぞれの表記の特徴について説明していきます。

米音のみを表す際の表記

1番目の表記は、開始時の母音に相当する音の記号の後に、
R音性母音であることを示すヒゲのような補助記号 ˞ を付けます。
一番シンプルで直接的な表記ですが、
辞書や学習書などにはほとんど採用されていません。

原因として考えられるのは、
˞ をつけると母音全体にR的な響きを加えることを意味してしまうので、
後半部分だけそのような響きになる ɑ や ɪ などの母音で始まる
R音性母音には適していないことがまず挙げられます。
他には、2番目の表記とも共通しますが、米音のみしか表せませんので、
スペースの限られている辞書や単語帳では採用しにくい
という理由もあるかと思います。

2番目の表記は、開始時の音の記号の後に 母音のRの記号の ɚ を続けます。
使い方的には、1番目とほぼ同じですが、
後半部分からR的な響きが加わっていくという実態により近い表現です。

ただ、ɚ という記号自体が発音記号の中でもあまり馴染みがないため、
今までは音声学に関する書籍や発音学習書、
または辞書では音声学者の竹林滋氏が編集に携わった
研究社の英和辞典あたりでしか使われていませんでしたが、
最近は他の場面でも徐々に広く使われはじめている表記です。
(逆転英語ガイドでもこちらを採用しています。)

米音と英音を併記できる表記

3番目の表記からは、米音・英音併記のためのものになっています。
(つまり米音ではRを発音し、英音では発音しないことを示した記号です。)

3番目の表記(ɪər 等)は、英音での発音の母音の記号のあとに、
単純に ər または r を続けるものです。
ここで注目していただきたいのは、
この r は斜体(イタリック)であり、
子音のRのための記号の r とは区別しているということです。

この表記のメリットは米英音併記が可能になる以外に主に3つあります。

  • ɚ という新たな記号を使わずに、ə と r で済ませられる。
  • ɑ ː r や ɪər のように単母音と二重母音の微妙な発音の違いも表せる。
  • hearing のように r の後に母音が続く場合でも、
    挿入される子音の r を /’hɪərɪŋ/ のように
    普通の r に戻すことで違和感なく表現できる。

一方、デメリットとして、発音をこれから学ぶ人に
/ər/ = /ə/ + /r/ という勘違いされるおそれがあります。
つまり、ə の発音をした後にRの音にするわけではないのに、
そのように発音するのだと思い込まれる可能性があるということです。

ər や ɚ 等はあくまでも最終的にR的な響きになることを示す表記です。
逆転英語ガイドで ɚ を採用したのにも
この認識を正しく持っていただきたいという狙いが込められています。

4番目の表記(ɪə(r) 等)は、3番目のものとほぼ同じ意図のものです。
r を斜体にする代わりに ( )で囲むようにしただけです。

5番目の表記(ɪəʳ 等)もこれと同様で、r の部分を右上の添字にしただけです。

3番目から5番目の表記は意味としてはどれも同じですが、
印刷面の問題や r の後に母音が続く場合の処理のしやすさなどから、
現在使われている辞書や単語帳などでは3番目が好まれているようです。

R音性母音の記号のその他の違い

R音性母音の表記の違いの根本となるものは、上記で説明した通りです。
他には細かいものとして、二重母音のR音以外の記号の違いがあります。
具体的には、ɪ – i 、 ʊ – u 、 ɛ – e 、 a – ɑ などの違いです。
これらの違いの理由は、単母音や二重母音の所で既に述べたものと同様です。
それらの選択がここでの表記にも反映されてるというだけのことです。

birdの母音での ɚ ː と ɝ の違いは何?

意味していることは全く同じです。
ただここでも音の質と量、あるいは両方のどの点に注目して
この母音と later などの母音の弱い ɚ と区別するのか、
という考え方が異なる
というだけのことです。

  • 長さ(量)だけならば、ɚ – ɚ ː
  • 質だけならば、 ɚ – ɝ
  • 両方ならば、 ɚ – ɝ ː

となります。
(米英音併記の表記になっても、同様です。)

ただ、どちらの母音も質的にはほぼ同じで、
違いは強勢がかかってるか否かの部分がほとんどですので、
あえて新しい(しかも ɛ と混同しやすい)記号である ɝ を導入してまで、
別記号にすべきかは微妙な判断です。

上記の3つの中でしたら、ɚ – ɚ ː が妥当だと思えますし、
国内の書籍でもそれが主流のようです。
(R音性母音の3番目の表記と合わせて、 ər – ə ː r となります。)

ただ、逆転英語ガイドでは再三申し上げたとおり、
ː 記号の使用を避けておりますので、
この2つの母音の違いは、強勢を表す記号のみで表しております。
( bird は /’bɚd/  paper は /’peɪpɚ/ となります。)

まとめ

以上のように、英語の母音の音素を表す発音記号には、
同じIPAを使っているものでも様々な組み合わせ方があります。
その記号の選び方に選定者の英語の音に対する視点や
学習者に対する配慮が含まれていることを感じていただけたと思います。

振り返りますと、IPAを使った英語の母音の発音記号の違いには、
次の2つの大きな要素があります。

  • 対となる母音の区別に音の量と質のどちらに注目するのか?
  • R音性母音をどのように表すのか?

皆さんがお使いになられている辞書や単語帳の発音記号を見る際にも、
まずはその記号セットがこの2つのポイントをどう扱っているかに注目すると、
そのセットの概要や趣旨の把握しやすくなりますので、
新たな視点でその発音記号に向き合えると思います。

まずは発音記号のセットをどれか1つ覚える

この記事では、数多くの発音記号のバリエーションを紹介しましたが、
もちろんそれらを全て覚える必要はありません。
ただ、自分がメインで使っている辞書や単語帳が使っているものを
少なくとも1セットは覚えて、
それらはどの単語の母音かということはぜひ覚えておいてください。

自分の基準となる発音記号のセットを1つでも持てれば、
他の記号セットを参照する時にも、
この記事で書いたような記号の選定基準と照らし合わすことによって、
どの音素を指してるかを簡単に翻訳し対応できるようになります。

逆転英語ガイドでの母音の発音記号の採用基準のまとめ

最後に、当サイトで用いる母音の発音記号を
選定した際の基準をまとめて終りにしたいと思います。

まず全体的なコンセプトして、次のような点を意識しています。

  • 扱うのは、基本的に米音のみ。
  • 英語の発音学習の初心者〜中級者の学習・認識に役立つことを念頭に。
  • 他の辞書・単語帳の標準から時に外れることはいとわない。

その結果、次のような具体的な基準で記号を選択しました。

  • 違う音質の音素は極力別の記号で表す。
  • ː 記号の使用を避ける。
  • 上記2点から必然的に音質表記に。
  • R音性母音は、米音のみを扱うので、 ɚ を使用。
  • 弱母音は、強母音と同じ記号になる場合は、強勢記号のみで区別。

以上のような基準を使っても、
標準からそう遠くはないセットになっていますので、
他の書籍の発音記号とも対応しやすくなってると思います。

ただ、次の2点は他所ではまず見かけない
独自の選択だと思いますので、そこだけはご留意ください。

  • birdの母音に ɚ を使用。
  • lawの母音に ɒ を使用。

以上です。
この母音の発音記号の一覧表と解説が、
皆さんの今後の発音学習のお役に立てれば幸いです。
(当サイトの今後の発音レッスン記事でも活用していきます!)

以下の参考・関連サイトにも興味深い情報が満載ですので、
お時間のある時にでもぜひお読みください。

それでは、また!

参考・関連サイト

総論

英語の音(主に母音)のIPA表記がどのように移り変わってきたのかを簡潔に説明。

上記と似ているが、変化の背景がさらに説明されている。
特にUptonの提案による変化についてのコメントが詳しい。

10種の英和辞典と4種の英英辞典に使われている母音の発音記号をまとめ、
その差異について詳しく解説している。

音素についての基本的な解説から始まって、
Jones式 → Kenyon式 → Gimson式の変遷についても簡潔に説明。

各辞書の発音表記の説明

ジーニアス英和辞典(大修館書店)

G4の大改訂前の発音表記の説明。この時点ではJones式。

上記と同じ第3版の発音記号の一覧表と解説が掲載。

ɪ や ʊ などGimson式の導入。

発音に関してはマイナーアップデート。
国内の英和辞典としては初めて英音での ɒ を導入。

新英和大辞典 (研究社)

竹林滋やJohn C. Wellsが編集に携わった、発音に関しては異色の辞書。
R音性母音の発音記号に ɚ が使われているのは、
これと同社から発売されているルミナス英和辞典だけ。

新英和大辞典と同じ発音記号セットが使われているルミナス英和辞典で個々の単語の発音表記をオンラインで確認できる。

Weblio英和辞典も研究社の新英和中辞典がベースになっている。

その他の英和辞書

ウィズダム英和辞典はGimson式。

ランダムハウス英和大辞典はJones式。

英英辞典含む英語圏での資料における表記

Longmanはonline dictionaryには発音記号はついていませんが、
紙辞書の発音記号はこちらから参照できます。

Longmanと並ぶ英国の代表的な英英辞典ブランド。

米国の代表的な英英辞典。独特の発音記号を使用。

オンラインで発音記号をIPA表記している英英辞典。
Kenyon式を採用。

アメリカの小中学生用の辞書等でよく使われている、
(IPAではない)フォニックスベースの発音記号。

その他の発音記号に関する資料

Jones式、Kenyon式、Gimson式の母音の発音記号をまとめて見られる。

主なアメリカの英英辞典で使われている非IPAの発音記号のまとめ。

様々な英語のdialect(方言)毎の音素と音声の対応表。

SHARE
最後までお読みいただきありがとうございます!
シェアやご感想をいただけると励みになります。
FOLLOW
更新情報+αの登録はこちらから
Sponsored Links